データは揃っている。ツールも導入した。それなのに、経営会議でマーケティングの貢献を説明できない——日本のBtoBマーケターの多くが、まさにこの壁にぶつかっている。Madison LogicとThe Harris Pollの調査が明らかにしたのは、マーケターの約半数が「何がパイプライン(pipeline)を生み出しているか」をいまだに推測に頼っているという厳しい現実だ。
—
データがあっても「つながらない」のが本当の問題
正直に言うと、測定ツールが増えれば増えるほど、逆に全体像が見えにくくなるケースがある。MAツール(Marketing Automation)、SFA(Sales Force Automation)、広告プラットフォーム、ウェビナーツール——それぞれが独自のレポートを出力し、それぞれが「貢献した」と主張する。
日本のBtoBマーケの現場では特に、マーケティング活動・顧客エンゲージメント(customer engagement)・営業の実行・そして最終的な受注というプロセスが、別々の組織と別々のシステムで管理されていることが多い。「マーケが送客した案件が、その後どう動いたか見えない」という声は、現場でよく耳にする。
これはツールの問題ではなく、データをつなぐ設計の問題だ。測定ツールへの投資を増やす前に、まず「どのデータとどのデータをどう結びつけるか」の設計が先に来なければならない。
—
経営層との信頼を失うのは意外と早い
「マーケティングの投資対効果が見えない」と経営陣から言われた経験はないだろうか。あるいは、予算の査定時期になるたびにROI(Return on Investment:投資対効果)の証明を求められ、答えに詰まる。
ここが落とし穴で、活動量の報告(セミナー開催数、リード獲得数、コンテンツ本数)と収益への貢献を混同してしまうと、経営層の信頼はじわじわと失われていく。アクティビティ・レポートが増えるほど、「でも売上にどう効いているの?」という問いへの答えが遠のく——これは日本のBtoB企業でも非常に典型的なパターンだ。
Madison Logicの調査が示すように、測定ツールに投資しながらも活動と収益のつながりを説明できない組織は、リーダーシップからの信頼を失うリスクが高い。数字を持っていても、それが「意思決定に使える数字」でなければ、説得力はゼロに近い。
—
目的希薄化効果(Goal Dilution Effect)が組織を蝕む
複数の目標を同時に追いかけるほど、一つひとつの目標への集中が薄まる——これが目的希薄化効果(Goal Dilution Effect)だ。マーケティング組織がブランド認知・リード獲得・ナーチャリング・受注貢献など多数のゴールを抱えると、どれが本当に優先事項か曖昧になり、測定も評価も難しくなる。
日本企業のマーケ組織でよくあるのが、「すべてのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を追う」という状態だ。四半期ごとに指標が増え、何十ものダッシュボードが並び、結果として「木を見て森を見ず」になる。重要なのは、パイプラインと収益に直結する2〜3の指標に絞り込み、そこに対して活動を設計し直すことだ。
「測定のための測定」を続けていても、組織の意思決定力は上がらない。むしろ目的希薄化効果(Goal Dilution Effect)によって、チーム全体のエネルギーが分散していく。
—
実践的な打ち手:「活動」と「収益」をつなぐための設計
では、具体的に何をすればいいか。
まず取り組むべきは、マーケと営業の間で「アトリビューション(attribution:貢献度配分)モデル」を合意することだ。マーケが「このリードはウェビナーから来た」と言い、営業が「いや、自分が既存接点から掘り起こした」と言い合う状況を放置しても、何も解決しない。どの接点をどう評価するか、シンプルなルールでいいので明文化する。
次に、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)データとマーケティングデータを物理的につなぐ作業が必要になる。Salesforce、HubSpot、kintone——どのツールを使っていても、「マーケ施策→商談発生→受注」の流れがシステム上で追える状態にしないと、永遠に推測が続く。
そして三つ目。レポートの粒度を下げることを恐れない。月次レポートで100個の指標を並べるより、「今月のマーケ起点商談数」と「そのうち受注に至った件数」の2つを確実に追う方が、経営層への説明力は格段に上がる。
—
まとめ:「測定している」と「分かっている」は別物
データがあることと、意思決定できることは同じではない。日本のBtoBマーケターに今求められているのは、ツールの追加でも指標の増加でもなく、「何を測ることで経営の判断を助けられるか」という問いに立ち返ることだ。活動と収益のラインを設計し直す——この一手が、マーケティング組織の存在価値を根本から変える。推測を続けるか、証明できる組織になるか。選択肢はそのどちらかしかない。
—
参考:https://www.madisonlogic.com/news/emarketer-guessing/
**
