「ABMをやっているのに、成果が出ない」の正体
アカウントベースドマーケティング(ABM)は、BtoBのゴートゥーマーケット戦略をより精度高く、より効果的にするための手法として広く採用されてきた。ターゲットアカウントを絞り込み、営業とマーケティングが連携して動くこのアプローチは、確かに一定の成果をもたらした。
しかし、導入から時間が経つにつれ、多くの企業が同じ壁にぶつかっている。
**「ABMをやっているのに、思うように成果が出ない」**という壁だ。
その根本原因は、多くの従来型ABMツールが「アカウント(企業)」を単位として設計されており、実際に意思決定をしている「個人」を見失っていることにある。
以下では、アカウント中心のABMが引き起こす4つの問題と、その解決策としてのコンタクトレベル・オーケストレーションについて整理する。
問題①|バイヤージャーニーが「平均値」に崩壊する
何が起きているか
バイヤージャーニーは本来、見込み客が意思決定プロセスのどこにいるかを把握し、営業とマーケティングが次に何をすべきかを判断するためのものだ。
しかし多くのABMツールでは、ジャーニーのステージが「個人の行動」ではなく「アカウント全体の累積スコア」で進む仕組みになっている。
ある担当者が広告をクリックし、購買意図の高いキーワードを検索し、関連記事を読んでいたとしても、アカウントスコアが閾値に達するまでツールは「まだ検討フェーズではない」と判断し続ける。
その間、メッセージは変わらず、営業が動くタイミングはバイヤーの興味のピークを過ぎた後になりがちだ。
初期の火災検知システムに例えるとわかりやすい。煙を検知した時点で警報が鳴るのではなく、室温が一定の閾値を超えてから初めて作動する仕組みだ。警報が鳴る頃には、火はすでに広がっている。ABMのアカウントスコアも同じ構造を持っている。
GTMチームへの影響
- ✅ マーケティングは、バイヤーがすでに次のステージに進んでいるにもかかわらず、初期フェーズのメッセージを届け続けてしまう
- ✅ 営業は、バイヤーの興味が高まっている最中ではなく、ピークを過ぎてからアラートを受け取る
コンタクトレベル・オーケストレーションによる解決
コンタクトレベル・オーケストレーションは、このタイムラグを取り除く。アカウントレベルで活動が積み上がるのを待つのではなく、個人の行動に対してリアルタイムで応答できる。
「家が火事になっています」と伝えるのではなく、「煙の兆候があります、火事になる前に手を打ってください」と伝えられる仕組みだ。
問題②|シグナルが意味を失う
何が起きているか
見込み客が購買意図の高いキーワードを検索したり、広告をクリックしたり、関連トピックに反応したりする行動は、本来、その人が何に関心を持っているかを示す重要なシグナルだ。
しかし多くのGTMチームでは、ABMツールの制約によってそのシグナルが活かされていない。
ABXスタックの創設者であるAmanda Heredia氏はこう指摘している。「これまでのツールのほとんどはアカウントで止まっている。組織があるトピックで『急上昇している』とは教えてくれるが、実際に誰がその調査をしているかはわからない」。
GTMチームへの影響
シグナルが特定の人物に紐づいていない場合、営業とマーケティングは推測で動くしかなくなる。
例えば、1万5,000人以上の従業員を抱えるAtlassianのようなエンタープライズ企業に対してBtoB SaaSを販売しているとする。マーケティング部門だけで1,000人以上が在籍している。「キャンペーン効果の測定に関するケーススタディの広告をクリックした成長マーケター」と「リードを増やす方法を検索した担当者」は、どちらも関連するシグナルを示しているが、誰が何をしたかわからなければ、推測で動くしかない。
コンタクトレベル・オーケストレーションによる解決
コンタクトレベルでABMプログラムをオーケストレーションすると、すべてのシグナルが特定の人物・トピック・アクションに紐づく。
SDR・BDRがアプローチする前に、各見込み客が何に関心を持っているかをシグナルから把握できる。さらに、バイヤーの関心や優先事項が時間とともにどう変化するかも追跡できる。
- ✅ チャンピオンが高レベルな情報収集から競合比較に移行したタイミング
- ✅ 技術系ステークホルダーが統合の詳細を調べ始めたタイミング
- ✅ 意思決定者がROIに関する広告をクリックし始めたタイミング
Salesforceのデータによると、「65%の顧客が、自分のニーズや嗜好の変化に合わせて企業が対応してくれることを期待している」。しかし実際には「61%の顧客が、ほとんどの企業は自分たちを一つの数字として扱っていると感じている」。
問題③|パーソナライゼーションが「なんちゃって」になる
何が起きているか
AIの進化により、カスタムランディングページ・業界特化メッセージ・動的フィールドの自動入力など、表面的にパーソナライズされた見た目のタッチポイントを作ることは容易になった。
しかし、「あなたのような人向け」のメッセージと「あなた個人向け」のメッセージは、まったく別物だ。
Forresterの調査(Adobe委託)によると、BtoBバイヤーの59%が、製品を調査・検討する段階で完全または大部分がパーソナライズされたコンテンツを期待している。そのバイヤーが実際に購買プロセスに入ると、その割合は71%に跳ね上がる。
GTMチームへの影響
アカウントデータや外部データベースから取得した情報をもとにパーソナライズしても、それはパーソナライゼーションの「幻想」を作るだけで、実際の「体験」にはならない。
そしてバイヤーはその違いに気づく。Gartnerの調査では、BtoBバイヤーの73%が、無関係なアウトリーチを送ってくるベンダーを避けるという結果が出ている。
コンタクトレベル・オーケストレーションによる解決
バイヤーが求めているのはパーソナライゼーションではなく、**レレバンス(自分ごと感)**だ。
Instantly.aiのアウトバウンド教育責任者Hans Dekker氏は、数百万件のアウトバウンドメールを分析した結果からこう述べている。「返信を生むのはレレバンスだ。今日自分が抱えている問題を解決してくれるオファーか、このメッセージは自分に関係があると思わせてくれるか。それだけで返信率が変わる」。
コンタクトレベル・オーケストレーションでは、パーソナライゼーションの基盤を変える。業種・企業規模・役職だけでなく、その人個人の行動とシグナルをもとにアウトリーチとマーケティングメッセージを構築できる。
例えば、フィンテック企業のマーケターをターゲットにしているとする。従来のABMツールでは、フィンテック企業のマーケター全員に向けた汎用的な広告やランディングページを作るしかない。しかしコンタクトレベルで管理していれば、あるVP of Marketingが「レベニューアトリビューション」を検索した事実を把握できる。そこから、そのテーマに特化したケーススタディを送るなど、ピンポイントなアプローチが可能になる。
問題④|視認性のギャップが「間違った判断」を生む
何が起きているか
フットボールチームは試合後に「テープを見る(プレー映像を振り返る)」。勝敗にかかわらず、何が起きたかを詳細に分析し、うまくいったことを増やし、うまくいかなかったことを減らすための材料にする。
GTMチームもABMの商談に対して同じことをすべきだが、多くの場合それができない。従来のABMツールは表面的な結果しか示してくれず、その結果に至った一連のタッチポイントの連鎖が見えないからだ。最終スコアはわかるが、そこに至るプレーはわからない、という状態だ。
GTMチームへの影響
何が商談を動かしたか見えないと、チームは推測に頼るようになる。
クローズドウォンの商談を振り返り、パイプライン創出前にアカウントがマーケティングに反応していたことを確認する。だからアトリビューションをクレジットする。しかし実際には以下がわからない。
- ✅ どのステークホルダーが反応したのか
- ✅ 何に反応したのか
- ✅ その反応が営業の会話にどう影響したか
不完全な情報をもとに最適化を続けると、判断の精度は上がらない。
コンタクトレベル・オーケストレーションによる解決
コンタクトレベル・オーケストレーションは、以下のような変化をもたらす。
「この商談はアウトバウンドからの案件だった」
ではなく、
「パイプライン創出前に、これら3人のステークホルダーがこれらのトピックに反応していた」
という形で、追跡可能なコンテキストを提供できる。
- ✅ マーケティングは、エンゲージメントがどのようにモメンタムを作ったかを示せる
- ✅ 営業は、自分のアウトリーチがジャーニーのどこで機能したかを確認できる
- ✅ リーダーシップは、どの活動が商談を動かしたかを把握できる
ABMを「アカウントを攻める戦略」から「人を動かす戦略」へ
上記4つの問題はすべて、同じ根本原因から生じている。ABMがアカウント中心に設計されており、その中にいる「人」を見失っていることだ。
コンタクトレベル・オーケストレーションは、その発想を逆転させる。ターゲティング・エンゲージメント・インパクト測定・オーケストレーションをすべてコンタクトレベルで実行することで、実際の購買プロセスを反映したABMプログラムが構築できる。
ABMは「アカウントを攻める戦略」ではなく、「アカウント内の人を動かす戦略」として再定義される時代に入っている。
参考:4 Costly ABM Problems Contact-Level Orchestration Fixes – Influ2
